交通事故で介護が必要になった場合、介護費用の損害賠償請求は可能?

代表弁護士 津田 岳宏 (つだ たかひろ)

交通事故で重傷を負い、脳や神経など体の重要な器官が損傷してしまうと、その後生涯にわたって介護が必要になってしまうケースがあります。

交通事故で要介護の状態となった場合、家族が介護をするにしても負担が大きくなりますし、専門の介護士に依頼した場合は費用が高額になってしまいます。

このような場合、将来の介護費用についても加害者に対して請求したいですよね。

介護費用についても、交通事故によって生じた損害として、加害者に対する損害賠償が認められるケースがあります。

この記事では、どのような場合に介護費用の損害賠償請求が認められるか、どのくらいの金額の損害賠償が認められるかなどについて、法的な観点から解説します。

交通事故で介護費用がかかる場合とは

まずは、交通事故によって発生した負傷が原因となり、介護が必要となってしまう場合のパターンについて見ていきましょう。

介護が必要になるケースには、大きく分けて①神経系統の機能または精神への障害を原因とする場合と、②その他高次脳機能障害を原因とする場合の2つがあります。

神経系統の機能または精神に著しい障害が残った場合

神経系統の機能障害とは、身体の神経が損傷したり、機能しなくなったりすることにより、寝たきり・半身不随などの深刻な症状が引き起こされることをいいます。

また精神の障害とは、交通事故の衝撃によって精神の崩壊や認知能力の大幅な低下などが発生し、身の回りの出来事を認識できなくなったり、日常生活を送ることがきわめて困難になったりすることをいいます。

神経系統の機能障害や精神の障害の程度が著しい場合、後遺障害等級別表Iの第1級または第2級が認定される要介護状態となります。

なお、第1級は「常に介護を要する」場合、第2級は「随時介護を要する」場合と分類されています。

その他高次脳機能障害などが残った場合

後遺障害等級別表Iの第1級または第2級の対象となる要介護状態に該当しなくても、実際には定期的に介護が必要になる場合があります。

その代表例が、いわゆる「高次脳機能障害」を生じた場合です。

高次脳機能障害とは、外傷や脳血管の障害により脳が損傷を受けた結果、記憶・注意・行動・言語・感情などに障害が発生することをいいます。

障害が軽度であれば日常生活をご自身で送ることも可能ですが、重症のケースでは常時または随時の介護が必要となる場合があります。

後遺障害等級認定における要介護の認定と介護費用について

前述のとおり、後遺障害等級別表Iの第1級または第2級に該当する「神経系統の機能または精神への著しい障害」については、要介護の後遺障害として分類されています。

後遺障害等級認定において要介護の認定を受けることができれば、慰謝料と介護費用の両面で有利な損害賠償請求を行うことができます。

要介護の認定を受けると慰謝料アップ・介護費用の請求も認められる

後遺障害等級認定において要介護の認定を受けた場合、後遺障害の中でも高額な部類の慰謝料を加害者に対して請求できます。慰謝料の金額は、3,000万円~4,000万円です。

これに加えて、労働能力を喪失したことに伴う逸失利益も請求できるため、実際の損害賠償金額より多くの慰謝料を受け取れると考えられます。

また、後遺障害等級認定において要介護の認定を受けた場合、介護費用の損害賠償請求についても認められるようになります。

後遺障害3級以下でも介護費用の請求が認められる可能性がある

後遺障害等級認定における要介護の認定は、あくまでも介護費用の損害賠償を受けるための参考情報のひとつに過ぎません。

たとえ後遺障害等級認定で要介護の認定を受けられなかったとしても、交通事故による負傷を原因として実際に介護費用を支払う必要が発生したならば、その介護費用は交通事故と因果関係を有する損害に当たります。

この場合、不法行為に基づき、加害者に対して介護費用の損害賠償を請求できます。

損害賠償請求により認められる介護費用の金額は?

交通事故による負傷を原因として発生した介護費用の損害賠償として、どのくらいの金額が認められるのか、目安となる考え方を解説します。

介護の必要性・誰が介護するかなどによって1日あたりの介護費用が変わる

介護費用の損害賠償額を算定する際には、まず1日あたりにかかる介護費用を計算する必要があります。

1日あたりの介護費用は、①どの程度の介護が必要なのか(介護の必要性)と、②介護を担当する人が誰かによって変わります。

①介護の必要性
症状が重ければ重いほどつきっきりの介護が必要となるため、その分1日あたり介護費用の金額も高額になります。

たとえば、親族が介護するケースでは、常時介護が必要な場合には1日あたり9,000円前後、随時介護が必要な場合には1日あたり7,000円前後の介護費用が認定された例があります。

②介護を担当する人
原則、専門の介護士を雇う必要性がある場合は、実際に依頼費用がかかりますので、実費全額が損害賠償の対象となります。

一方、親族が介護するケースでは、その負担・手間・失われる労働機会などは考慮されるものの、実際に出費が発生するわけではありません。

そのため、専門の介護士を雇う場合に比べて、1日あたりの介護費用は低い金額に抑えられる傾向にあります。

介護費用総額の計算例

介護費用の損害賠償は、一生涯でかかる介護費用の総額を、前倒しで一括して請求することになります。介護費用の総額の計算式は、以下のとおりです。

【計算式】
介護費用の総額=1日あたりの介護費用×365日×介護年数に対応するライプニッツ係数

介護年数は、要介護になった時点からの平均余命として計算されます。

またライプニッツ係数とは、将来の介護費用を前倒しで今受け取ることを考慮して、運用益分の金額を割り引くために用いられる係数です。

たとえば介護費用が10年である場合、10年に対応するライプニッツ係数は「8.530」なので、実際に受け取れる介護費用は8年半分程度ということになります。

具体例を用いて、介護費用の総額を計算してみましょう。

【事例】
・男性
・50歳で交通事故により要介護になった
・1日あたりの介護費用は8,000円

厚生労働省の平成28年簡易生命表によると、男性の平均寿命は80.98歳となっています。81歳として考えると、この男性の平均余命は31年です。

31年に対応するライプニッツ係数は「21.832」なので、介護費用の総額は以下のとおり計算されます。

介護費用の総額
=8,000円×365日×21.832
=6,374万9440円

参照:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
参照:厚生労働省「主な年齢の平均余命 」

介護費用の請求が認められた裁判例

実際に介護費用の損害賠償請求が認められた裁判例を一部紹介します。

①大阪地判平成23年10月5日
交通事故により、家族による介護を基本として、公的な介護サービスを一部利用する態勢で、付きっきりで介護が行われることになったケースです。
このケースでは大掛かりな居宅改装などが必要となったことも考慮され、家族・介護士による介護を合わせて、平均日額2万円の介護費用が認められました。

②東京地判平成21年7月23日
交通事故により生じた高次脳機能障害を原因として、随時介護が必要になったケースです。
常時介護が必要な場合に比べて介護の必要性が低く、また高次脳機能障害の程度も必ずしも高度であるとはいえないとして、日額3000円の介護費用が認められるにとどまりました。

まとめ

交通事故で要介護になってしまった場合、加害者に対して、一生涯にかかる介護費用の損害賠償を請求することができます。請求できる介護費用の金額は、症状の重さから見る介護の必要性や、実際に介護を担当する人が誰かなどの事情によって変わります。

もし不運にも交通事故に遭って介護が必要になってしまった場合、加害者から介護費用を適切に補償してもらえるよう、弁護士に相談することをおすすめします。

代表弁護士 津田岳宏(つだたかひろ)/昭和54年生/京都女子大学付属小学校卒業/東大寺学園中・高等学校卒業/京都大学経済学部卒業/平成19年9月弁護士登録/平成26年6月京都グリーン法律事務所を設立

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