交通事故で積載物や衣服が破損してしまった場合の損害賠償請求

代表弁護士 津田 岳宏 (つだ たかひろ)

「先日の交通事故で、車に積載していた納品予定の製品が破損してしまった。車の修理代とは別に、積載物の損害費用も請求できるのだろうか」

「先日交通事故に遭ったが、その時の衝撃で身に着けていた腕時計が壊れてしまった。衣服もぼろぼろになった。腕時計の修理代や衣服代も請求できるのだろうか」

車同士の交通事故で、特に減速などしていない状況で衝突した場合、その衝撃は相当なものです。シートベルトやエアバッグなどで体の安全は守ることができても、車内の積載物や備品などは無防備なことが多く、事故の衝撃で大きく破損することも珍しくありません。

今回は交通事故での積載物等が損壊した場合における損害賠償請求について解説します。

破損した事実だけではダメ。交通事故により破損したという因果関係の必要性

車の積載物が交通事故で破損した場合、交通事故で壊れてしまったことを証明できれば加害者に対し損害賠償請求が可能です(民法709条)。

言い換えれば、交通事故で積載物が壊れたという事実があっても、その交通事故によって壊れたという因果関係を証明できなければ、損害賠償請求は認められないことになります。

「その積載物は交通事故前から壊れていたのではないか」「交通事故とは別の事情が原因で破損したのではないか」といった反論が相手方保険会社から出てくることもあるので、これらの反論を排斥する証明が必要です。

この点については、現場や壊れた積載物を記録した写真などが証拠として有効になります。

またその破損した積載物自体が、因果関係の証明に役立つこともあります。よって交通事故で積載物が壊れたときは、捨てたりせずに保管しておいた方が良いです。

衣類や腕時計などの被害の損害賠償請求可能。損害額は時価額で算定される

交通事故により自身の衣類や腕時計などの所有物が損害を受けた場合、それが交通事故によって引き起こされた以上、損害賠償は請求できることになります。

ではその衣類等の物損被害に対して、どの程度の賠償金が支払われるのでしょうか。この点現在の裁判実務においては、時価による賠償が基本とされています。

つまり交通事故である不法行為が行われた時点で、その物が持つ市場価格により賠償額が決定されることになります。

例えば交通事故により腕時計が破損した場合、その腕時計の購入額が20万円だったとしても、交通事故時におけるその腕時計の中古価格の相場が5万円であれば、その腕時計の市場価格は5万円と判断されることになります。

よって被害者は、交通事故によって腕時計が破損した場合、5万円の限度で損害が認められることになります。

またその腕時計を修理に出した場合は、その修理費用を加害者に請求できますが、その場合の損害も時価額が上限になります。時価額が5万円の腕時計の場合は、修理代が5万円以上かかった場合でも、支払われる損害賠償金は5万円となります。

なお、衣服や腕時計などの物損についての損害は、自賠責保険では補償されません。全ての損害を相手方保険会社に支払わせる必要があります。

物損についての慰謝料は原則として認められない

交通事故の被害者については、病院へ通ったことや後遺障害が発生したことなど人身部分については、慰謝料は認められます。

しかし判例では、物損事故における慰謝料請求は、原則認められていません。器物の損害により精神的に損害が生じたとしても、通常はその財産的な損害賠償により、精神的な損害も補われたと裁判所が考えているためです。

もっとも、例外的に物損についての慰謝料請求が認められるケースもあります。

判例では、ペットや墓石、芸術的に価値のある陶芸などが損害を受けた場合に、精神的損害があったとして慰謝料請求が認められています。

裁判所は物損の慰謝料について、一個人の主観的な事情による精神的損害に対しては慰謝料を認めていませんが、社会通念上精神的損害が生じることが相当といえる場合に、慰謝料請求を認めている傾向にあります。

交通事故においては車が被害を受けることが多く、車の損害に対して慰謝料請求できるかが問題になることがあります。

大切にしていた愛車が大きく破損すれば、車の所有者の心は深く傷つき落ち込むはずです。

しかし現在の判例では、車をペットや墓石と同列に扱うのは難しく、車の損害に対する慰謝料請求は認められません。この点についての裁判所の態度は厳しいとも言えます。

判例は何を基準に損害賠償請求の成否を判断している?損害の予見可能性

車の積載物への損害賠償は一定の場合に認められていますが、何を基準に判例はその成否を判断しているのでしょうか。

これについて判例は、その積載物の損害が通常の損害である場合は、加害者は当然損害賠償の義務が生じるとし、その積載物が特別な事情による損害であっても、加害者がその事情を社会通念上予見できた場合は、損害賠償の義務が生じるとしています(民法416条の類推適用)。

例を挙げて説明すると、被害者が仕事で取引先に納品する精密機械を、事情があって営業車に積載して運転していたところ、交通事故に遭ってしまいその精密機械が破損してしまったとします。この場合、事情があって精密機械を営業車に乗せていたため、特別の事情による損害といえます。

この特別な事情による損害を社会通念的に見て、加害者が予見できるかが次に問題になります。

これについてはその車が営業車である以上、業務関連の品物を載せていても不思議ではありません。よってその積載物が精密機械であったといえども、それが交通事故により破損することが、社会通念上予見できると判断される可能性はあるといえるでしょう。

以上から、特定の業務で使用される特殊な積載物においても、車内への積載が社会通念上予見できる範囲内であれば、被害者は加害者に対して損害賠償請求できる可能性があります。

積載物が高額であればあるほど請求は認められない?予見可能性への影響

車内の積載物に対する損害賠償請求をする場合、当該積載物が低額でも高額でも、加害者が社会通念上その損害を予測できれば損害賠償請求することは可能になるのが原則です。

しかし、その積載物が高額であればあるほど、加害者の予見可能性は認められにくくなると考えられます。例えば被害者の車に、数億円相当の骨董品が積載されてあり、それが交通事故により損壊したとします。

この場合加害者が、その損害を社会通念上予見できたかといえば、一般的にそのような骨董品を車に乗せて運ぶことは、極めてまれと言わざるを得ません。よって加害者が、その損害を予見できたと認定されるケースは、どうしても少なくなります。

もっともいくつかの判例においては、高額な積載物の損害賠償請求が認められています。このあたりは、事件ごとによる個別の判断がなされているといえます。 

当事務所は、物損のみの事故を処理した経験も多数あります。積載物の被害など物損事故でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

代表弁護士 津田岳宏(つだたかひろ)/昭和54年生/京都女子大学付属小学校卒業/東大寺学園中・高等学校卒業/京都大学経済学部卒業/平成19年9月弁護士登録/平成26年6月京都グリーン法律事務所を設立

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